イギリス渡航者のための乳製品アレルギー対応:現地の表示ルールと外食時の注意点
海外旅行を計画される際、自身やご家族が乳製品アレルギーをお持ちの場合、渡航先での食事の安全性は大きな懸念事項の一つとなるでしょう。特にイギリスでは、その多様な食文化の中で、乳製品を含む食品が多岐にわたります。この記事では、イギリスへの渡航を予定されている乳製品アレルギーをお持ちの皆様が、安全かつ安心して食事を楽しめるよう、現地の対応状況や具体的な対策について詳しく解説いたします。
1. 英国における食品表示に関する法律と乳製品アレルギー表示
イギリスは、食品アレルギーに関する規制が比較的整備されている国の一つです。EU離脱後も、食品情報に関する主要な法的枠組みは、EUの「食品情報規則 (Food Information to Consumers Regulation)」に準拠しており、アレルゲン表示義務が厳格に適用されています。
1.1. 主要14種類のアレルゲン表示義務
英国の食品表示規則では、以下の14種類の主要アレルゲンについて、食品中に含まれる場合に表示が義務付けられています。
- セロリ
- シリアル(グルテン含有)
- 甲殻類
- 卵
- 魚
- ルピナス
- 牛乳(乳製品)
- 軟体動物
- マスタード
- ナッツ類
- ピーナッツ
- ごま
- 大豆
- 二酸化硫黄/亜硫酸塩
乳製品(牛乳)はこのリストに含まれており、パッケージ食品においては、成分リスト内で太字や下線などで明確に識別できるよう表示されています。
1.2. 非パッケージ食品における情報提供義務
レストラン、カフェ、ケータリングサービスなどの非パッケージ食品を提供する事業者も、アレルゲンに関する情報を提供することが義務付けられています。多くの場合、メニューにアレルゲン情報が記載されているか、従業員に問い合わせることで詳細な情報を得ることが可能です。
2. イギリスの外食事情と乳製品アレルギー対応の現状
イギリスでは、近年アレルギーへの意識が高まっており、外食産業全体で対応が進んでいます。
2.1. 大手チェーン店での対応
大手レストランチェーンやカフェチェーンでは、アレルギー情報をウェブサイトで公開したり、店舗でアレルゲンメニューブックを提供したりすることが一般的です。多くの店舗では、乳製品不使用(Dairy-Free)のオプションを明確に表示しており、代替ミルク(アーモンドミルク、オーツミルク、豆乳など)も広く普及しています。例えば、コーヒーチェーンでは、通常の牛乳以外のミルクを気軽に選択できることが一般的です。
2.2. 独立系店舗や小規模店舗での対応
独立系のレストランや小規模なカフェでは、対応レベルに差がある場合があります。アレルギー対応に積極的な店舗もあれば、情報提供が限定的な店舗も存在します。そのため、訪問前にウェブサイトで確認するか、直接店舗に問い合わせることが賢明です。特に、コンタミネーション(交差汚染)のリスクについては、事前に確認するよう心がけることを推奨します。
3. 乳製品アレルギー対応可能なレストラン・カフェの探し方
安全な食事場所を見つけるためには、いくつかの方法があります。
3.1. 専用ウェブサイトやアプリの活用
- Allergy UK: イギリスのアレルギー患者を支援する団体で、役立つ情報やレストランリストを提供している場合があります。
- HappyCow: ヴィーガンやベジタリアン向けのレストランを探せるアプリですが、乳製品不使用のオプションが豊富な店を見つけるのにも役立ちます。フィルター機能で「Dairy-Free」を指定できることが多いです。
- TripadvisorやYelp: これらのレビューサイトでは、ユーザーのレビューを通じてアレルギー対応に関する情報を得られることがあります。フィルター機能で「Vegan Friendly」や「Gluten Free Options」などを選択し、詳細を確認するのも良いでしょう。
3.2. 事前予約と確認
人気のあるレストランや特別な日の食事を計画する際は、事前に電話やメールで予約し、その際に乳製品アレルギーがある旨を伝えることをお勧めします。これにより、店舗側も準備を整えやすくなり、より安全な食事体験につながります。
4. スーパーマーケットでの商品の選び方
自炊を計画している場合や、加工食品を購入する際には、スーパーマーケットでの商品の選び方が重要になります。
4.1. アレルギー表示の確認
Tesco, Sainsbury's, Marks & Spencer, Waitrose, ASDAなどの主要スーパーマーケットでは、ほとんどのパッケージ食品に明確なアレルギー表示があります。乳製品が含まれる場合は、成分表でMilk、Lactose、Whey、Caseinといったキーワードが太字で強調されています。
4.2. 「Free From」セクションの活用
多くのスーパーマーケットには「Free From」と表示された専用のセクションがあり、乳製品不使用、グルテンフリー、卵不使用などの商品が集められています。ここには、植物性ミルク、乳製品不使用のヨーグルト、チーズ代替品、アイスクリームなどが豊富に揃っています。
5. 現地の言葉でアレルギーを伝えるフレーズ集
英語でのコミュニケーションは、安全な食事を確保する上で非常に重要です。以下のフレーズは、レストランやお店でアレルギーを伝える際に役立ちます。
-
基本的なアレルギーの告知:
- "I have a dairy allergy."(私は乳製品アレルギーです。)
- "I am allergic to milk, cheese, butter, and cream."(牛乳、チーズ、バター、クリームにアレルギーがあります。)
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含まれているかの確認:
- "Does this dish contain any dairy products?"(この料理には乳製品が含まれていますか?)
- "Is there any milk, cheese, or butter in this?"(これには牛乳、チーズ、バターが入っていますか?)
-
調理方法に関する依頼:
- "Is it possible to prepare this without dairy products?"(乳製品を使わずに調理することは可能ですか?)
- "I need a dish that is completely dairy-free."(完全に乳製品を含まない料理が必要です。)
- "Could you please check with the chef regarding dairy ingredients?"(乳製品の材料について、シェフに確認していただけますか?)
-
コンタミネーションへの懸念表明:
- "Is there a risk of cross-contamination with dairy products?"(乳製品との交差汚染のリスクはありますか?)
アレルギーカードを英語で作成し、持ち歩くことも非常に有効です。そこには、アレルギーの種類、摂取した場合の症状、緊急時の対応などを記載しておくと良いでしょう。
6. 緊急時の対応について
万が一、アレルギー症状が出てしまった場合に備え、緊急時の対応を知っておくことは不可欠です。
- 緊急連絡先: イギリスの緊急サービスは「999」です。救急車(Ambulance)を要請できます。
- 医療機関: 軽度な症状であれば、地域の「NHS Walk-in Centre」や「Minor Injury Unit」を受診することも可能です。より重篤な場合は、最寄りの病院の「A&E (Accident & Emergency)」部門へ向かう必要があります。
- エピペンの携帯: アナフィラキシーのリスクがある場合は、必ずエピペン(アドレナリン自己注射器)を携帯し、その使い方を同伴者にも伝えておくことを強く推奨します。
7. その他の実践的なヒント
- 渡航前の準備: 渡航前に、宿泊するホテルのレストランや周辺の飲食店のアレルギー対応状況を調べておくと安心です。アレルギーカードの準備も忘れずに行いましょう。
- アパートメントタイプの宿泊施設: キッチン付きのアパートメントやアパートホテルに宿泊することで、自炊の選択肢が増え、食事の安全性を自身で管理しやすくなります。
- スナックの持参: 慣れない環境での食事に備え、乳製品不使用のクラッカーやエナジーバーなど、安全なスナックをいくつか持参することをお勧めします。
まとめ
イギリスは、乳製品アレルギーをお持ちの方が安心して旅行できるよう、食品表示や外食産業での対応が進んでいる国の一つです。しかし、安全な食事を実現するためには、事前の情報収集、現地での明確な意思表示、そして万一の事態に備えた準備が不可欠となります。この記事でご紹介した情報を参考に、イギリスでの食事に関する不安を軽減し、安全で楽しい旅行を実現していただければ幸いです。